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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2011年2月20日

Lexical Approach に基づくGSL本の話

今、狩野みきさん(ビジネスブレイクスルー大学講師)といっしょにGeneral Service List (以下GSL) をベースにした会話本、つまりこの本を反復練習すれば,話し言葉の9割、書き言葉の8割をまかなっている基本2000単語がすべて頭に入り、英語を使うための基礎を固められるという本を書いています。仮題ですが、前回の『知られざる英会話のスキル』の続編ということで『知られざる基本英単語』という書名になると思います。

具体的にはGSLに出て来る単語をベースに、GSLに対するひとつの批判がコロケーションが手薄だということを意識して、ある単語を取り上げたら、その単語を使う上で必要最小限知っておくべきコロケーション(定型的な組み合わせ)を盛り込むようにしています。

サンプルをご覧ください。(下線部が重要な言い回し、続く解説欄で覚える場合のポイントを説明しています。)このサンプルをご覧いただいた上で、この本のフレームワークになっている lexical approachについて説明したいと思います。

☆ 会話例のサンプル

A: He didn’t pass the exam? Oh, what a pity. It’s a great pity that he worked that hard and didn’t pass. 彼、試験、受からなかったの?ああ、それは気の毒だな。あんなによく勉強していたのに受からないなんて、ひどく気の毒な話じゃない。
B: I know. But we shouldn’t feel pity for him. He doesn’t want to be an object of pity. But you know, when he told me the news as if it were nothing, I began to take pity on him. It really is a pity to see him like that. ん、わかるな。でもね、同情すべきでもないんだな。憐れんで欲しくないんだよ,彼としては。しかし、わかるだろう、まるで何でもないことかのように不合格の話をするのを聞き、なんだか彼が哀れに思えてしまってね。あんな彼、見るに忍びないよ。

• 本来、pityは相手に起きた気の毒なことにつき、「それは大変ですね、辛いことでしょうね」と同情する気持ちのことで、What a pity. で、相手のことであれば「心中お察しします」、第三者のことであれば「それは気の毒に」という気持ちを表す決まり文句です。That's a pity. と言っても同じです。
• 同情する気持ちになる出来事を言うにはフルセンテンスを使って、It's a pity that + フルセンテンスのパターンによります。この場合、強めるなら greatまたはrealをpityの前に入れます。「ちょっと残念な」と弱めるなら、It's a bit of a pity that という言い方をします。
• 誰々に対して同情の念を覚えると言いたいときは、feel pity for 誰々という言い方を使います。
object of pity は同情や憐れみの対象ということで、be seen as(と見られる)というフレーズを入れた、He doesn't want to be seen as an object of pity. (彼は同情の対象と見られることを好まない)という言い方もよく使います。
• 誰かに同情したり、憐れみを感じるのは、take pity on 誰々という言い方で、この場合、on に続く代名詞は、me, him/her, us, themという形を取ります。このtake pity on 誰々という言い方は、feel pity for 誰々と並んでよく使われますが、feelのときはfor、takeのときはonと組み合わせが違うことに注意を要します。
• いわばpityの内容を示すためにto do 何々とtoで始まる動詞のフレーズを使うときは、It is a pity to do 何々が基本で、強めるのであれば、reallyをbe動詞のisの前に入れます。It's a real pity that...と格好が似ていますが、こちらでは形容詞のrealではなく、reallyという副詞であり、また、副詞であることから、名詞の前ではなく、be動詞の前に入るので、It REALLY is a pity to do 何々となります。

☆ Lexical Approach

ご覧のとおり、言葉の組み合わせが決まっているフレーズを軸にして組み立てていますが、これが、lexical approach と呼ばれるものです。このアプローチ、「開祖」は Michael Lewis という研究者で、Lewis によれば、組み合わせ自体決まっている、ひとかたまりの単語 (chunk) こそが言語の本体であり、文法はそれに対して従たるものでしかないのであり、換言すれば、文法の勉強も一定以上の語彙力がなければ、そもそも意味がないということになります。

文法という抽象的ルールからトップダウン(演繹法)で具体的な言い回しを創り出すのではなく、具体的な言い回しに触れて行くことによりボトムアップ(帰納法)で文法がわかるようにした方が効率的だということであり、端的には、Language is grammaticalised lexis, not lexicalised grammar. つまり「単語やまとまりのある単語のグループ中に文法のにじみ出ているものが言語であり、 文法を単語や単語のグループで具体的に表現したものをもって言語と言うべきではない」ということになります。(ただ、Scott Thornburyは、ボトムアップとトップダウンの併用で行くべきだろうと言っており、共感をおぼえます)

このアプローチがどう会話例に現れているかと言うと三つあります。

第一に、例えば、It's a + 名詞 + that + フルセンテンスという文法パターンを先に覚えておき、その上で必要に応じて、It's a pleasure that we... It's a shame that you....といった言い回しをひねり出すより、よく使うに決まっている It's a pity that...という具体的な言い回し自体を先に覚えてしまい、その上で、It's a + 名詞 + that + フルセンテンスというパターンを覚えた方が効率的だということです。このことを指して Lewis は、Language is grammaticalised lexis(単語やまとまりのある単語のグループ中に文法のにじみ出ているものが言語だ)と言っているわけです。

第二に、Lexical Approach という見地から大事なのは、頻出単語が大事だと言っても、無限のpossibleな組み合わせがあるわけで、その中でも、英語固有のパターンとも言えるprobable な組み合わせがあり、それこそが英語を使う人にとっての「自然な組み合わせ」だということです。例えば、It' a pity that...を強めたいという場合、It's an awesome/incredible/tremendous pity that...という、形容詞の組み合わせとして possible なものはいくらでもありますが、probable なのは限られており、強めるのであれば、great, real, terrible と大体相場が決まっているものです。

第三に、頻出単語のコロケーションというものは、それ自体が他の頻出単語を含んでいるのが普通ですから、非常に効率よく、学習者が最初に築くべき「橋頭堡」ないしは足がかりを作れることを意味します。例えば、上に出て来る feel pity for 誰々take pity on 誰々は、それぞれ、pity という基本単語に加えて、頻出順位で100番台のfeelや 60番台のtakeを含んでいます。Sinclair という有名な研究者が、"learners would do well to learn the common words of the language very thoroughly, because they carry the main patterns of the language" (学習者は英語で頻出する単語を徹底的に勉強してこそ報われるというものだ。というのも、その種の単語こそが英語の主要パターンを担っているからだ)と言っていますが、このことを実感できるのがこの Lexical Approach です。

ちなみに上の会話例をVocabProfilerで分析すると、以下のとおりで、頻出順位1000番までのブルーの単語が8割方を占めており、頻出順位2000番までのグリーンの単語はpity。そして、赤のdidn't などはそのままの形では頻出単語リストに載っていない基本単語の応用形です。ですから、すべてGSLの基本2000単語の範囲に収まっている会話ということになります。


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Comments

素朴な疑問ですが、

It's a + 形容詞 + that + フルセンテンスという文法パターン

形容詞=>名詞 ではないでしょうか?

[返信]

ありがとうございます。訂正しておきます。

私も発売を楽しみにしています。

基本単語を飛び越えて、色々と難しい単語を積み上げて
しまった私には必読書ですね。

前作同様、「知られざる~」というフレーズが良い!
「おっ!」っと思って手に取ってみる人も多いと
思います。

[返信]


おおいに励まされました。ありがとうございます。日々、解説作り、つらいのですが、islandさんのような方々が待ってくださっているかと思うと、もうちょっとと頑張れます。

これは革命的な英単語の本になりそうですね。
本当に待ち遠しいです。
6月とは言わず、もっと早く(笑)!

[返信]

革命的かどうかはわかりませんが、なぜこの種のものが今迄出なかったのかと、そちらの方が不思議です。

こんにちは。上記の本、発売を楽しみにしております。大体のところで結構ですので、発売予定日をお教え願えませんでしょうか?よろしくお願いします。

[返信]

ありがとうございます。順調に進む限り、6月刊行の予定です。出版社はDHCさんです。どうぞよろしくお願いします。

日向先生、
先日は勝手なお願いにもかかわらず2011年の一般教書の分析までしていただきありがとうございました。

pityの会話例を読ませていただき、『知られざる基本英単語』の出版が待ち遠しくなりました。

このアプローチで身につければ、資格で高スコアだけと話せない、書けないという問題はおこりませんね。画期的な本になることは間違いないでしょうが、基本語を扱っているので普通の学習者や出版関係者にはそのすごさが伝わらないかもしれないことが唯一残念な点でしょうか。

掲げる理想・方法論は素晴らしくても、実行するのが難しい場合があります。今回の本は大変な手間がかかる作業ではないかと思います。少なくとも単語やフレーズを集めただけの本と違って以下の手間が必要でしょうから。

① pityについての用例を幅広く調べる。

② pityの定型的な言い回しを選ぶ。

③ 選んだ言い回しを使って自然な会話例を作る。

会話が興味深いだけでなく、pityというキーワード以外は1000語レベルの単語を使用しており、pityというキーワード習得に集中できるという点も学習者にやさしい作りになっている点も素晴らしいです。

大変な手間がかかる作業でお忙しいところかもしれませんが、出版を心から楽しみにさせていただきます。

[返信]

「基本語を扱っているので普通の学習者や出版関係者にはそのすごさが伝わらない」とおっしゃる点、まさにそのとおりで、こんな単語誰でも知っているという「抵抗勢力」に対して、誰も知っていると言えるなら、話し言葉の9割を占める単語グループなのだから、日本人は誰でも英語が話せるのに、事実はそうではないと説得するの苦労しました。もっとも本当に苦労したのは、これを体して社内で闘ってくれた担当の編集者さんですが。

たしかに手間が大変で、一日、6本前後しか進めませんが、頑張ります。Yutaさんをはじめ、きっと多くの方に喜んでもらえるという確信が励みになっています。

最近英語のことわざや名言にこってます。ドラマや映画にも出てくるし、自分で使えばNativeにも一目置かれますからね。先日、経済ニュースを聞いていてふと耳に入った、
"Probable impossibility is prefered to improbable possibility."
について最近つらつらと考えてます。アリストテレスの名言のようですが、いろいろ調べてもしっくりきません。ケンブリッジ英検の大家でもいらっしゃられる先生の解説を聞きたくコメントさせていただきました。

[返信]

http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2005/07/allusion.html
で書いたとおり、ご自分でことわざや格言を使うのは避けた方が賢明だと思います。

"A probable impossibility is preferred to an improbable possibility"の前段は、音速の突破や月旅行のようなものを指し、後者は、宝くじに当たるとか、巨大隕石が地球に衝突するような話で、言葉の意味は、端的には実現可能性の高い夢を追求せよということです。

なお、ケンブリッジ英検の試験委員を務めてはいますが、ケンブリッジ英検を研究しているわけではありませんので、「大家」という表現は当たっていないと感じます。

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