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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2011年2月28日

5文型の起源と限界

そもそも、この5文型は、今から100年以上も前に、後々、オックスフォード英語辞典のエディターになる C. T. Onions という研究者が打ち出したものですが、それがどういうものか、日本でだけ根を下ろしてしまったようです。そのいきさつは、和光大学の野村忠央先生によると、こういうことのようです。

[5文型がポピュラーなのは]C. T. Onions(オニオンズ、1873-1965)という学者がAn Advanced English Syntaxという本の中で書いたことに始まるのですが、それを細江逸記(1884-1947)という大正・昭和初期の有名な英語学者(法や時制の見解は21世紀の我々の目から見ても鋭い指摘が数多くある学者です)がその著作の中で紹介していったことが、日本にこれだけ5文型が広く流布した原因だと思われます。そして、それ以降今日に至るまで、5文型が日本の英語教育ではずうっと教えられてきているのです。(だから不思議なもので、逆にネイティブスピーカーに主格補語(Subjective Complement)とか言ってもわからないことの方が多いと思います。)

なんであれ、この5文型、すっかりわが国に根をおろしているわけで、池上嘉彦著『英文法を考える』(ちくまライブラリー)などは、こう指摘しているぐらいです。いわく、

「『5文型』の考えを提供したイギリス本国そのものの中でも、この Onions の体系はすでに遥か過去の遺物として忘却の彼方へと去ってしまっている。それがまだわが国では、金科玉条的な地位を占めているかのようである」

「金科玉条的な地位を占めている」背景には、国の学習指導要領がこういった5文型流にこだわっていることがあると思われます。現に中学や高校の学習指導要領をのぞいてみると、「主語+動詞+補語の文型のうち、どれとどれを教えよ…主語+動詞+目的語の文型のうち、どれとどれをやれ」と、SVCあるいはSVOといった言い方こそしていないものの、5文型的発想が頭にこびりついている様子がよくわかります。

余談ですが、なるほど学習指導要領というのは、北海道の子はSVOを知っているのに、沖縄の子はSVCしか教わらないというのでは困るという発想から来ている制度ですが、そもそも英語を教えるとなれば、どちらしか教えないで済ますことなどできませんから、要らぬお世話です。また、かえってこういった硬直的プログラムを押し付けると、先生たちの創意工夫を妨げるという意味で有害だと考えます。

ことのついでに言えば、こういった学習指導要領というのは、実際的でないという意味で、戦前の日本軍の「教則本」に似ています。『失敗の本質ー日本軍の組織論的研究』(中公文庫)によると、帝国陸軍は、西南戦争や日清戦争での成功体験をもとに、明治41年に「軍人精神の錬磨向上」を前提とした銃剣突撃主義を敗戦時まで後生大事に守り続けたと言います。

最後まで艦隊決戦主義にこだわった海軍も同じようなもので、聖典視されていた「海戦要務令」で描く海戦は、原実の例としては、一度もなかったと言います。偉い人たちが頭だけで考えるものが浮世離れするのはいつの時代でも同じということでしょう。


☆ 専門家は7文型

ところで、英語の専門家たちは、わが国での「主流」である5文型ではなく、7文型をもって基本としています。例えば、20世紀最大の文法書といった形容もされる Randolph Quirk ら の A Comprehensive Grammar of the English Language は、この7文型によっているわけですが、どこが違うかと言うと、5文型にプラスして、SVA と SVOA という二つのパターンが登場する点です。

SVAでのAは副詞的要素を意味する adverbial の略ですが、例えば、She lives. という従来の区分で言う SV型のセンテンスを考えた場合、これなどは、Where? に答える副詞的要素がないままではナンセンスであり、必ず副詞的要素(A)が入る新たなSVAというパターンが必要だとされるのです。対照的に、同じくSV型とされる、She died. の場合は、She died.でも通じるし、Shed died last year. でも通じます。副詞的要素が任意のものだということです。

上記の SVA 型は、同じ SV型でも、 こうした副詞的要素を入れても入れなくてもいいというタイプとは別に、She lives in XXX. というふうに、副詞的要素が不可欠のパターンがあるんだよという点を強調していると言えます。

一方、SVOAというパターンは、やはりSVOだけでは立ちいかず、副詞的要素が一緒に示されていないと意味が通じないケースがあるという問題意識に立って、新たに設けられたものです。例えば、指定業者に対してのみ発注できるようなケースを考えた場合、「本社からの指示で、すべて事務用品の注文は、XYZ社に対して出すよう求められている」と部下に説明するのであれば、こうなります。

According to head office instructions, we are required to place all office supply orders with XYZ.

ここでは、to place 以下が問題ですが、we are required to place all office supply orders だけでは意味がとおらないので、発注先を示す with 以下の前置詞句は必須だということです。

たしかにSVOという文型が頭にあれば、英語はまず主語から始めるんだ、次が動詞なんだという基本的な語順に即して英語が使えるようになるという意味では効用があります。しかし、それ以上の意味はないし、こだわると、スキルとしての英語をおぼえるという姿勢から、受験英語のデメリットとしてかねがね指摘されているとおり、英語の勉強のための英語ということに堕してしまいます。その結果はものの役に立たないただの知識としての英語です。

そのいい例が、受動態をわざわざ能動態に戻してから、どの文型に当てはまるかを考えたりする練習です。このように技巧をこらす意味が私にはわかりません。

いずれにしろ、文型にこだわるなら、理屈としては5文型ではなく、7文型をモデルとすべきだと言えます。他面、みんながみんな文法学者になるわけではないのですから、もともとそこまでやる必要などないというのが私の考えです。

実際に仕事で英語を使う上ではこの程度で十分というモデルだってありうるはずです。それが、次回説明する3文型モデルです。英語の使い手が普通によりどころとしているのは、この程度であり、それで十分という話です。加えて、勉強のモデルは単純明快なほどいいに決まっていますから、その意味でも、3文型はお勧めパターンです。

追記:英語の先生向けに5文型の是非をうまくまとめている資料として、下記のものを「発見」しました。勉強になります。

http://hb8.seikyou.ne.jp/home/amtrs/LAKE2002.pdf

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Comments

日向先生

いつも楽しみにblogを読ませていただいています。

5文型でなく7文型という話は、とても興味深いです。一つ質問が有ります。

That is if funding is forthcoming.

という分に出会ったことが有るのですが、これは7文型のどれに属するのでしょうか?
SVAという気がするのですが、その場合このいifの品詞は何でしょうか?何かが省略されているのでしっくりこない気もします。

よろしくお願いします。

[返信]

冒頭の that isは話し言葉で間投詞的に使われる、that is to sayの短縮形で、ここでは、何か言ってから、「但し、そうは言っても、飽くまで資金を確保できるとした上での話ですけれどね」と予防線を張るために使われています。

that is も if 以下も話し言葉独特の「センテンス未満」のセットであり、したがって、書き言葉を前提としている5文型はここでは通用しません。

上記「7文型」を基礎とするSVA文型などは非常に頻繁に登場すると私も思います。
先生の推奨する208パターンの構文にも、例えば「電話編」で出てくる
She's on the phone
She's not in yet
She's out to lunch
She's no longer with the company
などは確かに続く副詞的要素がなければ意味が成立しませんし、これらをSV文型とする従来の教え方にも疑問を感じます。もっとも、最近の学校教育の実情は知りませんので、SVAとしたり、あるいはもっとオーラル重視の教育かもしれませんが…。

[返信]

現場の先生たちがよく勧めるForestは5文型ですから、推して知るべしと思っています。妙な棲み分けがあり、オーラルは大体がALTに丸投げです。

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