2012年1月26日
人称代名詞に見る気配り
文法書というのは英語を言語システムとしか捉えませんから、無味乾燥です。人称代名詞と言うと、自分か相手か第三者を指すかに応じて使い分けがあり、さらに単数・複数の別があるよ、また、文中での働きによって、主格・所有格・目的格という違いがあるよという程度で話は終わりです。
しかし、こういう文法が問題になる英語の実際では、つまり実際に使うコンテクストにおいては、生身の人間がいるわけで、それに応じた気配りも要求され、そこから使い分けも生まれます。
こういう言語外の社会言語的側面まで視野に入れると、人称代名詞にも実は人間関係に配慮した使い分けのあることがわかるのです。
ビジネス英語のコーパス研究からわかることに、英語が何かをやり遂げるあるいはやらせるための手段として使われるばかりでなく、人間関係を気遣ってのツールとして極めて大きな役割を担っているという事実があります。
すなわちコミュニケーションないしディスコースを大別すれば、所定の目的を果たすための合目的的なもので、コンテンツ本位である transactional discourseと、それ自体の目的はなく、人間関係上の気配りから行なわれ、相手への気遣いが中心の relational discourseとがありますが、ビジネスの現場では両者が不即不離の関係を保ちながら文法上の選択に大きな影響を与えています。
このことを、人称代名詞の扱いという視点で見ると、実におもしろいことがわかります。
ビジネス・ミーティングのコーパスを見ると、you, I, she, he より、we の使用頻度の高いのです。一般の会話コーパスとの対比では、ビジネス・ミーティングのコーパスでの we の使用頻度は2倍です。
他面、こういった場面での you, I, she, he の使用頻度は一般会話より少なくなっています。
実際、ビジネス英会話のコーパス (CANBEC) 上、一般会話のデータと比べて突出して多いキーワードのベスト5中、三つが we, we've, we're という we 含みの言葉で占められているぐらいです。
他のyouやIと比べてweの使用が目立って多いのは、you を使うより we の方が響きが穏やかであること、Iを使うよりweを使った方が「自分が、自分が」ではなく、「ご一緒に」的な協力関係を強調できるからだと解されています。
いずれにしろ、ここからわかるのは、もっぱら仕事の手段としての業務トークというより、仕事上の人間関係を顧慮しての気配りトークでは、人称代名詞という一見簡単に見える文法事項にも人間味のある使い分けが見られることです。
ところが、普通の文法書の世界を見ると、人称代名詞の形式と意味を教えるに留まり、そこから進んでそれをどう使い分けるかを教えてはくれません。まさに仏作って魂入れずであり、ハートがありません。
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